ツムグイロ/山城恵理さん インタビュー
「陶芸家なの?アクセサリー屋なの?と聞かれますがそういう意識はなく、何かを表現するための手段としてウィービング(織り)・陶を取り入れ、その時作りたいものを作っています」
そう話すのは、屋号 ツムグイロとして活動している山城恵理さん。
自宅の窯で焼成している陶パーツや糸を織る・編む・結ぶなどの手法を組み合わせてアクセサリーやタペストリー・オブジェ等の制作をされています。
幼い頃から作ることが好きで大人になってからも"ものづくり"への想いを持ち続けていた中、
巡り合った"ウィービング"と"陶"。
この二つの表現方法を築き上げるまでにはどんな道のりがあったのでしょうか。
"陶ならでは"を楽しんでほしい
ツムグイロの陶耳飾りの魅力は目を惹かれる存在感。
「大ぶりの陶アクセサリーって見る機会が少ないような・・
割れるリスクが大きくてあまり作らないと思うのですが、そこをあえて挑戦しています」
あたたかみのある土の風合いや
色とカタチの少しの遊び心、
素地と釉薬の収縮の差によってできる
細かなヒビ(貫入)による豊かな表情や、滑らかな質感。
これらは全て、陶ならではを楽しんでほしいという想いから。
そんなこだわりを落とし込んだ耳飾りが完成するまでには、
多くの時間と細かな手作業によって作り出されています。
1.土の状態から成形、乾かす
2.素焼き(700℃)
3.ヤスリで削る
4.パーツ裏面に撥水剤を塗る(表面に塗る釉薬が垂れて窯内にくっつくのを防ぐ為)
5.パーツ表面に釉薬をかける
6.本焼き(1220〜1240℃ かける釉薬によって温度を調節)
7.工程3で削っても本焼き後、
裏面がザラザラしたりカドの引っかかりなどが出てくる為
仕上げとしてもう一度ヤスリで削る
8.ピアス・イヤリングの金具取り付け、完成
【工程2の素焼きしたパーツを取り出すところ】
素焼きの焼成は、
冷ます時間も含めて15〜16時間。
ちなみに本焼きは、焼成温度も高く
冷ます時間も含め24〜30時間かかるのだとか。
素焼きは、
写真のようにパーツを重ねて焼成が可能。
本焼きは表面に釉薬がかかっていて重ねて
焼くことができない為、
窯内に間隔を空けて配置します。
【工程3の素焼き後のヤスリがけ】
「このヤスリがけで仕上がりが変わるのと、
お客さんの肌に触れるので引っかかりがないように。
釉薬をかけた後だとガラスのようにコーティングされて
修正ができない為、
ここでの作業はしっかりと
念入りに時間をかけています」
丁寧に作り上げられた耳飾りはデリケートで
装着の際には気をつけなければなりません。
耳まわりに意識を持って
いつもより少し背筋がピンと伸びるような。
つけていることを忘れず、
その少しの緊張感や身につける自分だけの
ゆとりのある特別な時間を楽しむのも
ツムグイロの陶耳飾りの魅力の一つです。
仕上がりに一喜一憂
本焼き後に完成形のパーツが出来上がりますが、
その時の季節・気温・土の配合状態・釉薬の濃さや相性など
ほんの些細なことで焼き上がりが大きく左右されるそうです。
全く同じ状態で窯に入れ焼成したのにも関わらず、
表面に浮き上がってくる鉄のつぶつぶや貫入の入り方にも
多少の個体差が出たりと完全に同じものというのが難しいといいます。
その結果、驚きの仕上がりになることも。
「石橋を叩いて渡るような性格なので
思ってもいなかった仕上がりになることが刺激的でもあります。
想像通りにならないのが興味深く、
その瞬間が制作をしていて楽しい時ですね。
その反面、納品に向けて制作している時に
思いがけない仕上がりになると要望通りに届けたいので落ち込み、
たくさん作ったのに全部失敗というときもあります」
全てロスとなると心が折れてしまいそうです。
しかし、その失敗したパーツから次の作品への新しい発想に繋がることもあるのだそう。
少しの差で仕上がりに変化が表れる陶は奥深く、
毎回実験をしているようなもの。
自然のものを扱う楽しさと難しさに向き合いながら試行錯誤は続いて行きます。
自分の手で思うままに作る手仕事がしたい
お母様が家庭科の先生だったこともあり、
絵を描いたり手仕事が好きだった子供時代。
何かを作りたいという気持ちを常に持ち続けていた中、
初めて就いた職は雑誌のデザインをするグラフィックデザイナーでした。
心から望んだ職業は毎日が刺激的でやりがいもありましたが、
若さもあり一年ほどで辞めて東京を離れ、
その後地元の大阪で再びグラフィックデザイナーとして働きます。
忙しい日々の中で、気持ちに変化が。
「長くパソコンと向き合い"作る"ということがだんだん直接的じゃないというか・・・
機械を通してではなく
"自分の手でダイレクトに思うままに作る"という手仕事が恋しくなったんです」
経験を経て浮かび上がってきた自分の"ものづくり"への想い。
そんな手仕事を求め見つけては試してを繰り返していた頃、
海外のウィービングタペストリーを目にします。
ひたすら同じ作業の積み重ね・繰り返す工程も好きだったこと、
ある程度決まった枠の中で自分次第では自由に作れる面白さに心惹かれ独学で作り始めました。
その後、販売する機会にも恵まれ屋号をつけて活動をスタートしますが、
技術レベルが高い方を目にし、
気持ちが保てずモヤモヤしていたといいます。
何の職種にもその道が長い先人が居て、
気にしてしまうのは誰しもが通る道なのかもしれません。
悩んでいた頃、もともと器好きなこともあり
自分も作りたいという軽い気持ちで近くの陶芸倶楽部に通います。
倶楽部に通う人々は、
陶芸を本気でやっている人・趣味で通う主婦・5歳くらいの子供から老若男女問わず、
年齢も目的も人さまざまでアート・音楽、
色んなことに好奇心を持っている個性豊かな人々。
「そこでの出会いは特別で刺激的で。
いろんな人の話を聴いたり、自分の想いも話したりするうちに
"ものづくり"に向き合う気持ちが更に強くなりもっと活動したい!と積極的になりました」
伺ったエピソードとして驚いたのは、
倶楽部ではベテランから初心者に教えるのはダメなんだとか。
その理由は一度教えてもらうと、
ずっとそのやり方になってしまい個性がなくなるから。
自分でやってみる・失敗する・次に活かす、
そうすることで自分のカラーが生まれてくるように思います。
そんな教えも伸び伸びと制作に向き合うきっかけの一つだったのかもしれません。
その頃から陶アクセサリーも作り始め陶パーツをタペストリーに組み込ませたり、
反対に陶とウィービングを合わせたアクセサリーを制作したりと自由に表現の幅を広げていきます。
自分の中の"色"を集めて紡いでいく
「手仕事をしている身として何か一つのことを突き詰めている人にずっと憧れていた」と話す山城さん。
その反面、あれもこれもと色んなことに興味を持ってやってみたくなる自分の性格を
永い間ネガティブに捉えていたといいます。
ある時、山城さんのように"好きなもの"を
たくさん心に持っている方の言葉を目にします。
「好きなものが自分にはいっぱいある。
その好きなものが一つ一つ合わさって仕事となっている。
一つのことを極めることもかっこいいけれど、
色々な好きなものが最終的に仕事になって楽しければそれで良いのでは」
この言葉に山城さんの心は軽くなります。
「私も突き詰めるだけがかっこいいと思っていたけれど、
そう思う必要はないんだって気がラクになりました。
いろいろなことに触れてきた私だからこその組み合わせで生まれる
私の表現があるんじゃないか?と思えるようになったんです。
それが自分の中にある
さまざまな"色"を集めて"紡ぐ"ことなんだ、と」
好きなことや興味のあることにアンテナを張り、種まきをし続けてきた結果見つけた自分なりの表現方法。
一つではない形で表すことは自身の引き出しを増やしたり、ツムグイロの個性を際立たせる強みでもあると思います。
みみと
・ギフトラッピング