harishigoto/加藤麻衣さん インタビュー


 

迷いなく凛とまっすぐに、あたたかみを感じるharishigotoさんの刺繍。

控えめで落ちついた色合いの中にもキラッと光る存在感のある耳飾り。

 

そんなアクセサリーを作っているのは、

北海道函館市在住のharishigotoデザイナー加藤麻衣さん。

 

函館にあるアトリエにお邪魔させていただき、お話を伺ってきました。

 



人の心を動かすようなものづくりがしたい


 

加藤さんはharishigotoを始める以前は、ブライダルのヘアメイクや美容師のお仕事をされていました。

 

ヘアメイクという職業に憧れたのは、

いとこの結婚式でのお嫁さんの髪型に

これ、人が作ったものなのか!と感動したのがきっかけ。

その感動はすぐに私も作れるようになりたい!に変わりました。

 

昔からこれ!と思ったら一直線にまっすぐ。

一つのことをまずは極める。それが昔も今も変わらないこと。

 

刺繍や洋服を作ったりしていたお母様の姿を昔から見てきた加藤さん。

刺繍と出会う前は、

かぎ針でお子さんの帽子を編んだり、

自分の小物を作ったりと手芸は好きでずっとやっていたんだとか。

 

そんな矢先、

自分の好きなテイストの作家さんが集まる手紙舎主催の布博へ遊びに行った際、

以前ヘアメイクと出会った時の衝撃が加藤さんに走りました。

 

「布博で感動しちゃって・・・!

本当にこれ人が作ったの!?という衝撃。

これが人の手から生まれるんだって思ったら、

私も人の手から生まれたものなのかと感動するものを作りたい!!布博出る!」と思ったのだそう。

 

布博を見て帰宅した時の情熱は、

一緒に見に行った双子のお姉様も驚くくらいすごかったのだとか。

「布博出る!」と言った加藤さんに対し、

「刺繍やってないじゃん。なに、布博出るって言っちゃってるの」とお姉様。

その言葉にも「いや、私、出る!!」と宣言。

 

 

その時は、東京の実家に帰省中。

その日の布博の帰りに子供用の無地のTシャツを買い、

お母様にチャコペンをもらい、

刺繍糸を選び、Tシャツにお子さんの手形と足形を取りステッチをします。

 

 

「刺繍は機械に頼らず自分の感性だけでできると思って。

何にも左右されない。

 

機械だと機械と自分の相性もあったりするけど、

自分と布と針だったら自分の思うままにできるからいいなって。

 

いくら細かくても修正もきくし、自分の好きなようにできる」

 

こうして加藤さんの刺繍の日々がスタートしました。

 


お子さん達の手形を取り、初めて刺繍したTシャツ。
お子さん達の手形を取り、初めて刺繍したTシャツ。
まっすぐに力強い想いが伝わってきます。
まっすぐに力強い想いが伝わってきます。



極めた先に見える景色を楽しみに


 

刺繍は独学。

スタートしてからは、刺繍の練習の毎日。

 

最初は、自分のわかるステッチの中で好きなステッチを極めることにしました。

驚いたのがその際、

一切刺繍の本は読まなかったということ。

 

「本を読んでしまったらそれに洗脳され先入観が入ってしまい、

そこからの作品しかできなくなると思ったんです。

 

いろんなステッチを知ってしまうと、

たくさんステッチを取り入れた作品にしなきゃっていう変な頭になるのが想像ついてて。

 

多種類のステッチを入れないとちゃんとやった感が出ないのではという頭になるっていうことが性格上わかっていたから。

 

違う、そうじゃない。

 

このステッチだけでどれくらいのものができるんだろう、

これを突き詰めたらどんなものが出来上がるんだろう。

まずはそこが見てみたい。という思いが入り口だったそうです。

 

「その先が見てみたい、その先が見てみたい。という想いが常にある」と話す加藤さん。

 

その言葉通り試行錯誤を重ね、

新たなステッチを取り入れたり使う糸の素材を替えてみたり、

一つ一つ試しては直し納得するまで突き詰める姿が見られました。

 

そんな刺繍の日々を経て、Instagramで投稿を開始。

始めて一ヶ月でオーダーが入り、

その後東京や各地での展示販売を重ね、

憧れていた布博への出店が決まりました。

 

更なる成長とその先の景色を求めて、加藤さんは一歩一歩進んでいきます。

 



自分の心と向き合いながら


 

都内に住んでいた時、すごく情報に影響されていてそれが常に嫌だったと話す加藤さん。

 

「自分で作品に集中する時にいろんな情報が入ってくると、

もうそれで自分の作品じゃなくなる瞬間ってあるんですよね。

 

ここに居ると基本的に情報がない。

 

鳥が鳴いているとか鳥は何を考えているんだろうとか今日は晴れてるなあとか。

そういうのだから自分に本当に向き合える。

 

これが多分都内に住んでいたら絶対自分じゃ作れなかったと思う。

 

逆に情報が欲しい時もあるのでそういう時は都内に帰省した際に色々見て、いっぱい吸収して作る。

ここに居ると半年に一回くらいすっからかんになっちゃって。

 

ネットも小さい画面で見てるだけだと空気感とかわからないんですよね。

そういうのをやっぱり見に行きたい。

 

洗練されたものを見て、街はこういう風に変わってるんだと感じ取る。

自然はこっちでたくさん見れるから。

そういうバランスを取りながらやってます」

 

都内の刺激が強すぎて自分がいなくなっちゃうと常に感じていましたが、

都内から離れここ近年で自分と向き合う時間がちゃんとできて、

そのおかげで自分と自分の好きを信じることができていると言います。

 

東京はないものが "ない"。

情報が溢れてて自分で選別し、保たないと流されてしまいそうになります。

 

〈情報がいらなければ、"ここ"で作っていればいい〉

 

温かみがありつつも磨き上げられた空気を出すharishigotoのアクセサリーは

このメリハリのあるバランス感だからなのかもしれません。

 





何があってもやめたくない、ずっと刺繍を続けていきたい


 

「作品を作り始めてから変わらないのが、

100人いて100人に喜んでもらえるものを作ろうと思っていなくて。

 

その中の誰か一人でも共感してくれる人が、

同じこれが好きっていうところに目を向けてくれる人が一人でもいたらいいなっていう思いで作ってる。

それはずっと変わらない。

 

誰が見てもかわいいじゃなくて、

一人でもかわいいって思ってくれる人がいたらいいな。」と笑顔で話してくれました。

 

「何があってもやめたくない。

ずっとやっていきたい。

 

次、何が生まれるかわからないけど、

空っぽになって生まれなくなっちゃうかもしれないけどずっと続けていきたい。」

 

きっと変わらないのは、

柔らかく温かみのある中にもひと針ひと針、意志がこもった刺繍。

 

今日も、布と針と自分にまっすぐに向き合い刺繍をしています。