syy /小川真由さん インタビュー
身につける人の個性に合わせて変化し、落ち着いた輝きでさりげなく耳元を彩ってくれる「syy」の耳飾り。
フィンランド語で「理由」を意味する"syy"(スー )。
小川真由さんは、一つ一つコンセプトをつけた真鍮・銀アクセサリーを作っています。
アクセサリーが生み出されるまでのお話を伺いに自然豊かな富山県氷見市を訪ねました。
ものづくりのきっかけ
昔から絵を描くことや作ることに加え、洋服やヘアスタイル、ネイルなどに興味があった小川さん。次第にお洒落に関わる何かを作りたいと思うようになりました。
「進路を考える段階で最初に浮かんだのが服作りだったんですけど、私は裁縫が苦手で、ミシンも壊す勢いで‥‥‥(笑)。
5歳くらいの頃に叔母の家で初めて目にしたアクセサリーに心が弾んだことを思い出し、服は難しいけどアクセサリーなら作れるかもしれないと思いました」
その後、富山大学の芸術文化学部へ進学し、木工・金工・漆工とプロダクトが学べるコースで金属工芸を専攻。
「大学では技術的な基礎を学びました。卒業後も製作を続けて行こうと思ったんですけど、社会を知らないまま飛び込むのが怖くて。一度、社会人経験をするために会社に入って学ぼうと思ったんです」
富山市内にある服と雑貨を扱うセレクトショップで働きながら製作活動は続けていきました。仕事は店頭での接客を始め、裏方として商品撮影やオンラインショップでの対応などさまざま。そのころに学んだことは今も役に立っているのだそう。
3年ほど働いたのち、結婚を機に退職、出産も続き製作活動は休止状態に。
約5年間は子育てに集中し、お子さんが保育園に入るタイミングで自分のこれからの働き方を改めて考え始めます。
「どうやって働こうかなと考えたときにやっぱりもう一回作りたいなって気持ちはあったんですが、その当時は普通にパートで働くんだろうなと思っていて」
新型コロナウイルスの蔓延により世の中の状況は一変し、人々の生活や人生観も変わって行きました。
「人がどんどん亡くなっている状況を目の当たりにして、これから自分もどうなるかわからない。もうやりたいことをやらないとダメだな、やっぱり作ろう」と決心し、2022年頃からsyyをスタートしました。
日々の製作について
「作品一つ一つにコンセプトをつけているので、それぞれのアクセサリーがその形に辿りついた" 理由 "みたいなものをお客さんに楽しんでもらえたらいいなという意味合いでつけました」
「tsunagaru」
「ame」
「yadoru」‥‥‥
小川さんは日常の中で出会ったモノや言葉、情景をテーマに製作。
作品とともに紹介されている背景を読むと、この形に行き着いた想いが知れて作品の魅力となっています。
「一番苦労しているのが作品づくりのコンセプトで、毎回とても時間がかかるんです。
結局自分を苦しめている気がして何回もこの屋号でよかったのか?と考えてしまいます」
コンセプトを大切にしているのは大学時代の恩師からのこんな言葉が染み着いているから。
「『なんとなくで、ものづくりしてはいけないよ』という先生の言葉が今も心の奥底に残っているんです」
恩師からの言葉を大事にし苦戦しながらも製作活動を続けてきた小川さん。作品のストーリーに興味を持って声をかけてくれる人や、購入してくれる人との出会いが心の救いになるという。
届けたい人
syyとして活動を始めた頃は、アクセサリー作家として活躍されている方も多く、すでに飽和状態。
「最初から他と差をつけることばかり考えていました。
アクセサリー製作されている方も作品もたくさんある中で、どうやって見つけてもらえるのか?という部分で、何か変わったものじゃないと駄目だということしか考えていなかったです。真鍮・銀と異素材を組み合わせて製作したら、周りと違いが生まれるのではないかと思い作っていました」
そんなとき、活動の見直しのために事業相談へ通います。
そこで相談員からの“syyは誰に届けたいんですか?”という質問を機に改めて方向性を考え直すことに。
「再度どういう人に届けたいのかと考えたら、当時作っているものはちょっと違うのかなと思い始めました。
扱っている真鍮や銀の素材は手入れしながら育てていくような金属だと思っていて。年代的にも私と同じような30代から50代くらいの人で、日々をちょっと丁寧に暮らしているようなゆとりを持って過ごしている女性に届くといいなと思っています」
そこから小川さんの気持ちも作風もよりシンプルとなり、少しずつ変わっていきました。
素材の魅力
syyで扱う真鍮と銀。
金工と言っても大きく分けて3つの技法に分けられます。
・鍛金(たんきん)ー【金属を叩いたり、曲げたりして造形】
・鋳金(ちゅうきん)ー【溶かした金属を型に流し込み造形】
・彫金(ちょうきん)ー【金属面に模様を彫ったり、切削したりして造形】
大学では主に鋳金(鋳物)に特化して学び、中でも精密鋳造に力を入れていた小川さん。
「精密鋳造は、細かいディテールや複雑な形状などアクセサリーを作るのに適している鋳造方法で、原型で使用するのはワックスと言って、蝋燭のような素材なので、作業としては少し粘土細工に近いんです。平面的なものより立体的なものを作るのが元々好きなこともあり、形の自由度がすごくあるのでこの技法なら向いてるかも!と思いました」
ワックスにはサイズや種類、形状が豊富にあり、糸のこやヤスリで削ったり、熱で溶かしたりしながら成形します。精密鋳造するにあたっていかに原型を綺麗に作るかもポイントなのだとか。
製作の大まかな流れとしてはワックスで原型を作り、鋳造業者(※)に金属にしてもらい小川さんの元に戻ってきた後は、それぞれ研磨や金具をつけるためのロウ付け作業を経て一つのアクセサリーが完成します。
※鋳造は鋳造業者に持っていくのが一般的で、型をとって次にワックスを溶かして金属を流し込むところまで行う。
「真鍮はよくゴールドと間違えられることがあるんですけど、ゴールドとは違った深みのある色合いがいいなと思っていて、銀は洗練された美しさがあるところが好きです。
それぞれメッキをかけずに無垢の素材を使っているので磨き方や叩き方を変えるだけで表情が変わっていく。
経年変化により風合いが増していって身に纏う人それぞれで違いが出て、一人一人に寄り添っていくような存在になるんじゃないかというところが気に入っているんです」
どちらも控えめな輝きで、装いを引き立ててくれます。
作品への想い
一番多くの時間を費やすのはコンセプト。
どんなときに浮かぶのか尋ねると、「考えようとするとなかなか浮かばなくて。車を運転している際や入浴中、作業と違うことをしている瞬間に突然降りてくることが多いです。あとは、同じくものづくりしている人との会話の中で刺激された後とか。インプットがないと何も出てこないんだなっていうのをすごく実感しますし、どこから発想が広がるかはわからないので普段から意識して色々なものを見るようにしています」
「最初にコンセプトをつけることを決めてしまったがために悩まされることが多いのですが、テーマに見合った形に出会えたときや自分自身が心からときめくものを作れると嬉しさを感じます」
アイデアが浮かんだらまずはイメージを描いてそれから作るかと思いきや、意外な答えが返ってきました。
「書いて作るとイメージ通りに大体ならないのでそのまま作り始めることが多いです。
大学時代の恩師から『あなたは考えるより先に作るのが向いている』と言われて。
とにかく作りながら考えなさいと言われたことが頭に残っているので、手を動かし続けてブラッシュアップさせていくことを心がけています。あとはやっぱり一回完成しないとわからないことも結構あったりして。出来上がってもうちょっとこうした方がいいのかなと気づきがある」
これから
氷見市内を中心に出店も数多くされている小川さん。
前回購入したアクセサリーを身につけて来られる方がいたり、Instagramでコンセプトを知って足を運んでくれる方がいたりと、お客さんと話す時間や作品への反応を知ることができて喜びを感じるそうです。
アクセサリーの製作を続けながら、今後はインテリアに関する作品や他の作家さんとコラボレーションなどにも挑戦したいのだとか。
コツコツと手を動かし続け、努力を重ねて歩んできた小川さんの道のり。
syyのさらなる発展が楽しみです。
みみと
・ギフトラッピング